人はナゼ、太る(肥満る)のか?

ダイエット治療医として日々診療していて、ふっと考えることがあります。

そもそも、「ナゼ、人は太る(肥満る)んだろうか?」と・・・

そこで、本稿では、人が太る理由について少し考えてみたいと思います。よろしければお付き合いください。

1. 生物学的要因

  • エネルギー収支の不均衡
    人間の体は、摂取カロリーが消費カロリーを上回ると、余剰エネルギーを脂肪として蓄えます。これは、太古の昔(縄文時代 など)、飢餓に備えるための進化的適応の産物です。現代では食料が豊富で運動量が減ったため、余剰した糖質などのエネルギーが脂肪へ変換されて皮下脂肪や内臓脂肪へ蓄積されることが原因です。
  • 遺伝的要因
    肥満には遺伝的要素が関与します。特定の遺伝子(例:FTO遺伝子)が食欲や代謝効率に影響を与え、肥満リスクを高めることがあります。ただし、遺伝は「傾向」にすぎず、環境や生活習慣が大きく影響します。
  • ホルモンバランス
    • インスリン:糖質の過剰摂取でインスリンが過剰に分泌され、皮下脂肪や内臓脂肪への脂肪蓄積を促進。
    • レプチン:満腹感を伝えるホルモンですがが、肥満の人ではこのレプチン抵抗性が起こり、食欲の抑制が効かなくなります。
    • コルチゾール:ストレスでこのコルチゾールが増加し、脂肪(特に内臓脂肪)の蓄積を助長してしまいます。
  • 腸内細菌叢
    腸内細菌(腸内フローラ)のバランスが崩れると、エネルギー吸収効率が上がり、肥満につながる可能性がある。加工食品や高糖質食が腸内環境を悪化させます。

2. 環境的要因

  • 食料の過剰供給
    現代社会では高糖質で安価な加工食品(ファストフード、菓子類、ジュース)が容易に入手可能。これらは糖質が多く、過食を誘発しやすくなり、結果的に肥満してしまいます。
  • 座りがちな生活
    デスクワークやスクリーンタイムの増加により、日常の運動量が減少。消費カロリーが減り、脂肪が蓄積しやすくなってしまいます。
  • 都市化と利便性
    車やエレベーターの普及、食事のデリバリーサービスなどが運動機会を減らし、カロリー消費が減ることにより肥満が悪化してしまいます。

3. 心理的・行動的要因

  • 過食の習慣
    ストレス、退屈、感情的な動揺(例:悲しみや不安)による「感情的な過食」が肥満の原因になる場合があります。食事がストレス解消の手段になる場合、コントロールが難しくなので注意が必要です。
  • 食欲の錯覚
    高糖質食品は脳の報酬系(ドーパミン)を刺激し、過度な食欲を引き起こします。これにより「食べる快感」を求めて過食に傾き、肥満してしまいます。
  • 睡眠不足
    睡眠時間が短いと、食欲を抑えるレプチンと食欲を増すグレリンのバランスが崩れ、過食につながります。睡眠不足は1日6時間未満でリスクが上昇します。

4. 社会的・文化的要因

  • 食文化と習慣
    地域や家庭の食文化(例:高糖質な伝統料理、頻繁な外食)が肥満を助長します。例:日本でも洋食化やファストフードの普及でカロリー摂取が増加。
  • 経済的要因
    低所得層では、栄養価の低い高糖質食品が手頃でついつい選びがちです。健康的な食材(野菜、良質なタンパク質)は高価な場合が多いので、低所得者層で肥満が多い傾向があります。
  • 広告とメディア
    食品業界の広告(特にスナックやジュース)が過食を促す場合が懸念されます。特に子どもは広告の影響を受けやすく、注意が必要です。

5. 医学的・薬剤的要因

  • 太る内分泌疾患
    甲状腺機能低下症やクッシング症候群などの内分泌(ホルモン)代謝に影響する疾患が、症状として”肥満”を引き起こすことがあります。
  • 薬の副作用
    内服のステロイド薬、一部の抗うつ薬や抗精神病薬などが食欲増加や代謝低下を招き、肥満の原因になる場合があります。

6. 現代社会特有の要因

  • ストレス社会
    仕事や人間関係のストレスがストレスホルモンであるコルチゾール分泌を増やし、脂肪蓄積や過食を誘発する場合があります。
  • 時間の制約
    忙しさから調理時間がなかなか取れずにコンビニ食や外食に頼りがちになってしまいます。これらが糖質過剰摂取を誘発してしまい、結果的に肥満を誘発してしまいます。
  • テクノロジーの影響
    スマートフォンやゲームの普及で、夜更かしや運動不足が増加していまい、スクリーンタイムが長い人は肥満リスクが上がる傾向にあります。

7. 肥満が進行するメカニズム

  • 悪循環の形成
    肥満が進むと、運動がしづらくなり(下半身の関節への負担、疲労感)、基礎代謝率が低下してしまいます。さらに食欲が増すホルモン変化が起こり、肥満がさらに悪化する悪循環に陥ります。
  • 社会的スティグマ
    肥満による批判や自己評価の低下がストレスを増し、さらに過食や運動回避につながる場合も懸念されます。

8. 解決へのアプローチ

肥満は単なる「意志の弱さ」ではなく、多因子の影響です。以下が予防・改善の鍵:

  • 食事管理:糖質や加工食品を控え、野菜・タンパク質・健康的な脂質を重視する(例:糖質制限や地中海式食事)。
  • 運動習慣:1日30分のウォーキングや筋トレで消費カロリーを増やす。
  • 睡眠の改善:7~8時間の良質な睡眠を確保。
  • ストレス管理:瞑想、趣味、カウンセリングでストレスを軽減。
  • 環境調整:ジャンクフードを家に置かない、歩く機会を増やす。
  • 専門家の支援:ダイエット治療医の診察を受けて、個人に合ったダイエット治療プランを作成し実施する。

いかがでしょうか?

人間が肥満する理由は、進化的な体質(エネルギー蓄積)と現代の生活環境(高カロリー食、運動不足、ストレス)のミスマッチが主な要因のようです。それらに加えて遺伝やホルモンも影響しますが、生活習慣の改善でコントロール可能な部分が非常に大きいように思います。

肥満は多くの場合は個々の方々の誤った生活習慣が影響しています。肥満と真正面から向き合い、その上で、自らの悪しき生活習慣を徹底的に改善することが最も重要であり、それこそが究極の“健康への近道”であると思います。

なので、ダイエットは、実は”究極の予防医学”なのです。

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