

日々、肥満の方や痩身治療を希望して来院される患者さんを診療していますが、常に頭の中の中心に位置することは、「如何にして、インスリン抵抗性を改善して多くの病気を予防できるか?」です。
肥満とは単なる“ポッチャリ体型”ではなく、恐ろしい病気への入り口に過ぎないからです。
特に、肥満由来の“インスリン抵抗性”が「怖い」とされる理由は、単独の病気というより、全身のいろいろな病気の入口になってしまう点にあります。
では、順を追って解説します。
そもそも何が起きているのか
内臓脂肪が増えると、脂肪細胞から遊離脂肪酸や炎症性物質(TNF-α、IL-6など)が過剰に放出されます。これが肝臓・筋肉・脂肪細胞のインスリン受容体のシグナルを鈍らせ、「インスリンが効きにくい体」になります。
すると膵臓は「インスリンが足りないのかな」と判断し、さらにインスリンを分泌して血糖を抑え込もうとします。この代償的な高インスリン血症が、最初はうまく血糖値を正常に保ってくれるため、自覚症状がほぼゼロのまま何年も進行してしまうのが恐ろしい点の一つです。
肥満・内臓脂肪蓄積→脂肪細胞から炎症物質放出+高インスリン血症→2型糖尿病・膵β細胞の疲弊・心血管疾患・動脈硬化の進行・脂質異常症・高血糖・高血圧・脂肪肝&肝硬変リスク
それぞれの恐ろしさを具体的に見ていきましょう
1. 自覚なく進行する「サイレントキラー」であること
高インスリン血症がうまく血糖を抑えている間は、健康診断の空腹時血糖値さえ正常に見えることがあります。本人が気づかないまま、内側では血管や臓器に負担がかかり続けます。
2. 単一疾患ではなく「病気の入口」になること
- 膵臓が疲弊しきると2型糖尿病へ進行
- インスリン抵抗性は血管内皮を傷つけ、動脈硬化・心筋梗塞・脳卒中のリスクを上げる
- 中性脂肪上昇・HDL低下・悪玉LDLの質的悪化(small dense LDL)といった脂質異常症を招く
- インスリンによるナトリウム再吸収促進などを介して高血圧にもつながる
- 肝臓に脂肪が蓄積し、脂肪肝から肝硬変・肝がんへ進行する
- 高インスリン血症はIGF-1経路を介して細胞増殖を促し、一部のがんのリスク上昇とも関連が指摘されている
- 女性ではPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の主因の一つにもなる
3. 悪循環(vicious cycle)を作ること
炎症と高インスリン血症はさらに脂肪蓄積や食欲調節の乱れを招き、肥満そのものを悪化させます。一つの病態が次の病態の原因になり、放置すればどんどん絡み合っていきます。
4. 「メタボリックシンドローム」の中核病態であること
肥満、高血糖、脂質異常、高血圧が組み合わさるメタボリックシンドロームは、インスリン抵抗性をハブとして互いに結びついています。一つだけ治療しても他が改善しないことが多いのは、根本にこの病態があるからです。
つまり、インスリン抵抗性が怖いのは「それ自体が病気だから」というより、ほぼ全身の主要疾患(糖尿病・心血管疾患・肝疾患・一部のがんなど)の上流にあって、自覚症状なく何年もかけて土台を作ってしまう点にあります。早期発見には、空腹時血糖だけでなく、空腹時インスリン値やHOMA-IR、腹囲(内臓脂肪の指標)なども参考になります。
