コレステロール値は、下げすぎるとさまざまな健康被害を引き起こすことが近年の研究で分かって参りました。特に、コレステロールが低すぎると、発がん率の上昇や老化の進行に関連する可能性が指摘されています。
本稿では、コレステロールの役割と下げすぎることによる弊害についてお話しします。
コレステロールの重要な役割
まず、コレステロールは「悪者」のように思われがちですが、私たちの体にとって非常に重要な役割を担う物質であることを理解しておく必要があります。
- 細胞膜の主要な構成成分: 全ての細胞の膜(細胞膜)の主要な成分であり、細胞の構造を維持し、細胞内外の物質のやり取りを調節する役割があります。細胞膜が適切に機能しないと、細胞は正常に活動できません。
- ホルモンの材料: 副腎皮質ホルモンや性ホルモン(エストロゲン、テストステロンなど)といった様々なステロイドホルモンの原料となります。人間の生命維持に必要なほぼ全てのホルモンは、このコレステロールから生み出されているわけです。
- ビタミンDの生成: 紫外線に当たると皮膚で活性型ビタミンDが生成されますが、この活性型ビタミンDもコレステロールを材料としています。
- 胆汁酸の生成: 脂肪の消化吸収を助ける胆汁酸の原料となります。
コレステロールが低いと発がん率が上がる?
複数の研究で、総コレステロール値が低い人ほど、がんの罹患リスクが高まるという報告があります。特に、日本人を対象とした研究でも、低コレステロールと肝臓がんのリスク上昇の関連が示唆されています。
このメカニズムについては、まだ完全に解明されているわけではありませんが、いくつかの仮説が挙げられています。
- 免疫機能の低下:
- コレステロールは、免疫細胞(白血球やリンパ球、ナチュラルキラー細胞 など)の細胞膜の健全性を保つ上で重要です。コレステロール値が低すぎると免疫細胞の機能が低下し、体内で発生したがん細胞を監視・排除する能力が弱まります。
- 細胞膜が不安定になることで、免疫細胞が情報伝達を正常に行えなくなることも考えられます。
- 細胞膜の機能不全:
- がん細胞は、正常な細胞ががん化して発生します。コレステロール不足によって細胞膜が脆弱になったり、細胞間の情報伝達がうまくいかなくなったりすることで、細胞が正常な増殖・分化の制御を失い、がん化しやすくなります。
- 既存のがんや病気の影響:
- がんがすでに発生している場合、がん細胞がコレステロールを大量に消費したり、肝機能が低下してコレステロールの合成能力が落ちたりすることで、結果的にコレステロール値が低く出ている可能性も考えられます。この場合、低コレステロールががんの原因というよりも、がんが低コレステロールを引き起こしている、という因果関係になります。
コレステロールが低いと老化が進む?
コレステロール値が低すぎると、「老化の促進」が誘発されてしまいます。
- 細胞の健康と修復能力の低下:
- コレステロールは細胞膜の構成成分であるため、不足すると細胞膜が不安定になり、細胞がダメージを受けやすくなります。細胞の損傷や機能低下は、老化のプロセスと密接に関連しているためです。
- 細胞の修復能力が落ちることも、老化につながると考えられます。
- ホルモンバランスの乱れ:
- コレステロールは様々なホルモンの材料となるため、不足するとこれらのホルモン(特に性ホルモンなど)の生成が滞る可能性があります。ホルモンバランスの乱れは、身体機能の低下や、いわゆる「老化現象」として現れることがあります。
- 血管の脆弱化:
- 一部の報告では、コレステロールが低すぎると脳卒中の中でも恐ろしい“脳出血”のリスクが高まります。血管の健全性が保たれないことは、全身の臓器の老化にもつながり得ます。
いかがでしょうか?
コレステロールは高すぎると動脈硬化などのリスクを確かに高めますが、低すぎると逆に体の正常な機能に支障をきたします。
特に、がんのリスク上昇については複数の研究で示唆されており、その背景には免疫機能の低下や細胞膜の機能不全などが関連しているという仮説があります。老化については、細胞やホルモンの機能維持といった面で影響します。
重要なのは、コレステロール値が「低ければ低いほど良い」というわけではなく、適切な範囲(基準値内)に維持することです。健康診断などでコレステロール値が基準値を大きく下回る場合は、良識をも持った医師に相談もしくはセカンドオピニオンし、適切なアドバイスを受けるようにしましょう。