
当院でのダイエット治療において、“糖質制限”は必須のアイテムです。
そして、近年の研究により糖質の過剰摂取は肥満だけでなく“老化”の原因にもなることがわかってきました。
本稿では、「なぜ、糖質を摂りすぎると老ける(老化する)のか?」について、掘り下げたいと思います
糖質の摂りすぎによる老化のメカニズム
- AGEs(終末糖化産物)の生成:糖質を過剰に摂取すると、体内で糖とタンパク質が反応してAGEsが生成されます。AGEsはコラーゲンやエラスチンなどの組織を硬化させ、肌のしわやたるみ、血管の老化を促進します。
- 酸化ストレスの増加:高血糖状態は活性酸素を増やし、細胞やDNAにダメージを与えます。これが老化プロセスを加速させます。
- インスリン抵抗性と炎症:糖質過多はインスリン抵抗性を引き起こし、慢性的な炎症を誘発します。炎症は老化に関連するさまざまな疾患(心血管疾患、糖尿病など)のリスクを高めます。
- ミトコンドリア機能の低下:過剰な糖質はミトコンドリアに負担をかけ、エネルギー産生を低下させることで細胞の老化を促進します。
糖質の摂りすぎにより、おおまかに上記のような老化現象が出現します。特に精製された糖(砂糖や白い炭水化物:白米・白いパン・麺類・お菓子・ケーキ類など)の摂取過多が老化を加速させます。
糖質の過剰摂取が老化に与える影響について、下記にもう少し掘り下げてみたいと思います。
1. 糖質過剰摂取とAGEsの関係:
AGEs(Advanced Glycation End Products、終末糖化産物)は、糖質(主にブドウ糖や果糖)が体内のタンパク質や脂質と非酵素的に結合する「糖化反応(メイラード反応)」によって生成される老化促進物質です。過剰な糖質摂取は血糖値の急上昇を引き起こし、AGEsの生成を加速させます。これが老化や疾患のリスクを高める主な要因です。データと研究
- AGEsの蓄積と寿命:オランダの7万人以上を対象とした研究では、体内にAGEsが多量に蓄積したグループは、糖尿病や心臓病のリスクが3倍、死亡リスクが5倍高く、寿命が短いことが報告されています。
- 糖尿病患者のAGEs:アメリカの1型糖尿病患者を対象とした大規模臨床実験(DCCT、2005年)では、厳格な血糖管理を行った群(HbA1c 7.2%)は、通常管理群(HbA1c 9.0%)に比べ、10年後の心筋梗塞や脳卒中のリスクが57%低いことが確認されました。これは、高血糖によるAGEs蓄積が長期間の健康リスクに影響を与える「高血糖メモリー」の証拠とされています。
- 皮膚のAGEsと生活習慣:昭和大学の山岸昌一教授による日本での研究(対象約11,000人)では、喫煙、運動不足、精神的ストレス、睡眠不足、朝食抜き、甘い物の過剰摂取がAGEs蓄積を増加させることが示されました。
- 脳とAGEs:アルツハイマー病患者の脳では、健常者に比べ約3倍のAGEsが蓄積しているとの報告があります。
AGEs生成の2つの経路
- 体内生成:高血糖状態が続くと、血中の余剰な糖がタンパク質(コラーゲン、エラスチンなど)と結合し、AGEsを生成。全体の約2/3を占めます。
- 食事由来:高温調理(焼く、揚げる)された食品に含まれるAGEsが吸収される。食品中のAGEsの約7%が体内に取り込まれるとされています。
2. AGEsが老化に与える影響:
AGEsはタンパク質を変性させ、細胞や組織の機能を低下させることで、全身の老化を促進します。具体的な影響は以下の通りです:a. 皮膚の老化
- メカニズム:コラーゲンやエラスチンが糖化すると、弾力性が失われ、しわやたるみが形成されます。また、AGEsはメラノサイトを刺激し、シミやくすみを引き起こします。
- データ:AGEsが蓄積した皮膚は黄褐変(黄ぐすみ)を示し、見た目の老化が進行。コラーゲンの架橋形成により、肌の保水力が低下し、乾燥肌も引き起こされます。
b. 血管の老化
- メカニズム:AGEsは血管内皮細胞を障害し、動脈硬化を促進。炎症反応を引き起こし、心筋梗塞や脳卒中のリスクを高めます。
- データ:日本糖尿病学会は、血糖管理が血管の老化防止に不可欠と強調。約78%の人が「糖化年齢が実年齢より高い」との調査結果があり、若いうちからの血糖コントロールが推奨されています。
c. 骨と関節
- メカニズム:骨のタンパク質(コラーゲン)が糖化すると、骨がもろくなり、骨折リスクが高まる。関節のプロテオグリカンが糖化すると、変形性関節症の原因になります。
- データ:AGEs蓄積は骨粗鬆症のリスクを増加させ、骨の重量の3分の1を占めるタンパク質の変性が進行。
d. 脳と認知機能
- メカニズム:AGEsは脳の神経細胞にダメージを与え、認知症(特にアルツハイマー病)のリスクを高めます。
- データ:アルツハイマー病患者の脳におけるAGEs蓄積量は、健常者の約3倍と恐ろしい結果が出ています。
e. その他の疾患
- AGEsは白内障、がん、腎臓病、メタボリックシンドロームなどのリスクも増加させます。
3. 糖質過剰摂取の予防策:
AGEsの生成と蓄積を抑えるためには、食事、運動、生活習慣の改善が重要です。以下に具体的な対策を挙げます:
a. 食事の工夫
- 低GI食品の選択:
- GI値(グリセミック指数)が55以下の食品(例:玄米、大豆、全粒粉パン、オートミール)は血糖値の上昇を緩やかにし、AGEs生成を抑制。
- 例:白米(GI値88)より玄米(GI値55)を選ぶ。
- 食べる順番:
- 「ベジファースト」を実践。食物繊維(野菜、海藻、きのこ)→タンパク質(肉、魚)→炭水化物の順で食べると、糖質の吸収が緩やかになり、血糖値の急上昇を防ぐ。
- データ:野菜から食べ始めると、食後血糖値の上昇が約30%抑制される。
- 抗酸化物質の摂取:
- ブロッコリー、トマト、ほうれん草、ベリー類、大豆製品、青魚(サバ、イワシ)、シナモンなどは、抗酸化作用や抗糖化作用があり、AGEs生成を抑制。
- 例:ブロッコリースプラウトやマイタケに含まれる成分がAGEs分解を促進。
- AGEs含有量の多い食品を避ける:
- 高温調理(焼く、揚げる)の食品(例:フライドポテト、ステーキの焦げ目)はAGEsを多く含む。生、蒸す、煮る調理法が推奨される。
- データ:揚げ物は生の状態に比べAGEs含有量が10~100倍増加。
- 酢やネバネバ食品:
- 酢(酢酸)やクエン酸(レモンなど)は糖質の吸収を遅らせ、食後血糖値を抑制。納豆、オクラ、モズクなどのネバネバ成分も同様の効果。
- データ:食事に大さじ1杯の酢を加えると、食後血糖値の上昇が約20%抑制される。
b. 運動
- 食後20~30分のウォーキングや軽い運動は、血糖値の上昇を抑え、AGEs生成を減少させる。
- データ:食後15~20分の早歩きで、血糖値の上昇が約25%抑制される。
c. 生活習慣
- 睡眠:6~7時間の良質な睡眠は、新陳代謝を促進し、AGEsの代謝・排泄を助ける。
- 禁煙・節酒:喫煙はAGEsを増加させ、禁煙後でも体内AGEsが正常値に戻るのに15年かかる。
- ストレス管理:ストレスは糖化反応を促進するため、リラクゼーションや適度な運動が有効。
d. AGEs測定
- 皮膚に光を当てる「AGEsリーダー」で、数十秒で体内AGEs蓄積レベルを測定可能(、)。これにより、生活習慣改善の動機付けになる。
いかがでしょうか?
上記のように、「糖質の過剰摂取」は、AGEsの生成を通じて皮膚、血管、骨、脳など全身の老化を促進し、さまざまな疾患リスクを高め、多くの研究データから、血糖値の急上昇を抑える食事(低GI食品、ベジファースト、抗酸化物質の摂取)、適度な運動、良質な睡眠がAGEs蓄積を抑制し、老化を遅らせる効果が期待できます。
特に、山岸教授の研究や日本糖尿病学会の指針では、“お腹などの肥満”が気になり始めたような30-40台の若いうちから、“糖質制限による血糖管理”の重要性を強調しています。
ダイエット治療は最善最良の予防医療でありアンチエイジング医療です。
肥満や老化でお悩みの方は、まずはお気軽にお近くのダイエット治療医へ相談してみてはいかがでしょうか?