
医療ダイエット治療では基本的に患者さんには“糖質制限”を指導しますが、これはただ単に“痩せる”ためだけではなく、「食後の血糖スパイク」を軽減することも重要な要素の一つと考えられています。
本稿では、この“食後の血糖スパイク(postprandial hyperglycemia、食事直後に血糖値が急上昇し、その後急降下する現象)”を繰り返すことによる健康への害について解説します。
1. 血糖スパイクとは?
- 通常、健常者では食後血糖値は 140 mg/dL 未満 に収まり、2時間後には 120 mg/dL 以下 に戻ります。
- 血糖スパイクは、食後1〜2時間で180〜200 mg/dL以上に急上昇し、その後急降下する状態。
- 特に糖質過多・早食い・食物繊維不足などで起こりやすい。
2. 繰り返す血糖スパイクの健康への害
① 血管内皮のダメージ(動脈硬化の進行)
- メカニズム:
- 高血糖は酸化ストレスと炎症を引き起こし、血管内皮細胞を傷つける。
- 特に急激な血糖変動は、持続的高血糖よりも血管に強いダメージを与える(Diabetes Care, 2016)。
- 結果:
- 動脈硬化の加速 → 心筋梗塞・脳卒中リスク↑
- 微小血管障害 → 網膜症・腎症・神経障害
② インスリン抵抗性の悪化(2型糖尿病への進行)
- 繰り返すスパイク → 膵臓が過剰にインスリンを分泌 → 高インスリン血症
- 長期的にはインスリン感受性低下 → 2型糖尿病発症リスクが2〜5倍に(Lancet Diabetes Endocrinol, 2018)
③ 認知機能の低下(認知症リスク)
- 血糖スパイクは脳の炎症とアミロイド蓄積を促進。
- 研究(Neurology, 2020)では、血糖変動が大きい人ほど認知症リスクが1.5〜2倍。
④ 脂肪肝・メタボリックシンドローム
- 急激なインスリン分泌 → 脂肪合成促進 → 内臓脂肪蓄積
- 特に肝臓への中性脂肪蓄積 → 非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)
⑤ 酸化ストレス・老化の加速
- 血糖スパイク → **AGEs(終末糖化産物)**の生成増加
- 皮膚のコラーゲン破壊、シワ・たるみの原因にも。
3. 特に、この“食後血糖スパイク”に注意すべき人の特徴
| リスクグループ | 理由 |
|---|---|
| 糖尿病予備軍(HbA1c 5.7〜6.4%) | すでに血管ダメージが進行中 |
| 肥満・内臓脂肪型 | インスリン抵抗性が高い |
| 早食い・夜食習慣 | 血糖スパイクが頻発 |
| 家族歴(糖尿病・心血管疾患) | 遺伝的素因 |
4. では、どのようにすれば改善できるの?
- 食事の工夫
- 食べる順番:野菜 → タンパク質 → 少し炭水化物
- GI値の低い食品(玄米、そば、全粒穀物)
- 食物繊維を最初に(10g以上/食)
- 生活習慣
- 食後10〜15分の軽い運動(散歩、ストレッチ)
- 早食い防止(1口30回噛む)
- ダイエット治療医へ相談:医療ダイエットを通じて、体型・生活習慣の改善を図る
いかがでしょうか?
「食後の血糖スパイクは、静かな血管キラー」と呼ばれています。
この“食後の血糖スパイク”を繰り返すことで血管・膵臓・脳にダメージが蓄積し、10〜20年後に心筋梗塞や心不全などの心疾患・2型糖尿病・脳卒中・認知症として発症します。
今からでも遅くないので、この“食後の血糖スパイク”を起こしにくい生活習慣に改善することが最も重要です。
まずは、お近くのダイエット治療医へお気軽に相談しましょう。
参考文献
- Ceriello A, et al. Diabetes Care 2016;39(2):300-307
- Gorst C, et al. Lancet Diabetes Endocrinol 2018;6(1):45-57
- Rawshani A, et al. Neurology 2020;94(15):e1581-e1591
